FYI ~ アラサー港区おじさんの独白

某会社で働いています。論理性が重視される職場ではありますが、ここでは感情や直感を大切に、お話をしています。

とけない魔法

自信の源泉を他者からの承認に求める人たちは、古今東西一定数いる。

僕の同僚もまたその一人で、彼は口を開けば「もっと評価されたい、評価されるべきだ」という。

もちろん、それが彼の働くモチベーションになっていることは知っているし、

それは僕が持ち合わせていない類の感情なので、深いところはわからない。

 

と、予防線を沢山張ったうえで、それでも思うこととしては、

「そろそろ自分自身の内側から漲る自信が身についてもいいんじゃないかな」ということ。

 

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僕はあまり、シンデレラという物語が好きではなくて。

結局彼女は、彼女という存在自体を肯定されることなく、その場しのぎの魔法にかけられて

真夜中の鐘に怯えながら、虚構にまみれた舞踏会に参加せざるを得なくなって、

おまけに王子様はガラスの靴がないとシンデレラをidentifyできない始末…。

 

僕には、彼がそんなシンデレラと重なって見えてしまう。

権威を持った上級職の人に見つけてもらうために、自分が活躍できそうなプロジェクトを選んで、

その上級職の人の前で失敗しないように、事故らないように、ビクビク、オドオド。

漸くいい評価を貰っても、暫くたてばまた別の誰かからの承認が必要になってしまう。

 

繰り返しになるけど、そういう戦い方、モチベーションの維持の仕方もあるし、

それで上まで上り詰めている人も沢山いるかもしれない。

 

だけど、彼はそういうタイプじゃないと思っていて。

その場しのぎの魔法なんかなくても、権威ある誰かからの承認がなくても、

溢れる才知と迸る情熱を武器に、堂々と戦っていくことができると思う。

ガラスの靴がないとidentifyしてくれない王子様に見つけてもらう必要はない。

 

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なんていう話を、何度となくしているんだけど、やっぱり評価を求めることをやめられないようで。

それだけ、内側から漲る自信を身につけることは難しいみたいで。たとえそれだけの実力があったとしても。

でもきっと、いつか気づいてくれる日が来ると信じている。

究極的には自分で「これだ」と思えなければダメなんだと。

 

僕たちはシンデレラじゃない。

後輩が、会社を辞めた。

 

この会社では珍しいことではないし、今までだって何度となく、先輩や同期や後輩を見送ってきたけど、

それでも、ふとした瞬間に、もう隣のブースから電話会議に出ているであろう声が聞こえなくなることや、

ちょっと仕事が早く終わった日にテクストして、サク飯に行ったりすることができなくなることが実感されて、

なかなか慣れることができる類いのものではないなと、思ったりする。

 

その後輩とは、正式なプロジェクトで一緒になったことはない。

何度か提案書だったり、セミナーの資料作りをやっただけで、ともに過ごした時間は他の同僚たちとのそれに比べれば幾分少ない。

けれども、その一つ一つの仕事の中で、僕は沢山の言葉を彼に投げかけてきたし、そして彼からも沢山の言葉をもらったと思っている。

さみしい気持ちが全くないわけではないけれど、やれることは全てやったという確信がある。

 

1mmの後悔もない。

 

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時々、とても交流の深かった部下が会社を辞めていくことについて、

「何千時間も投資したのに、よくわからない転職をしやがって」みたいなことを言う人がいる。

あるいは、「なぜもっと引き留めてあげることができなかったのか」と嘆く人がいる。

気持ちはわからなくもないけれど、僕はちょっと違う見方をしていて。

 

プロフェッショナルは、究極的には孤独な存在であって、その人を支配できる、その人に支配してもらえると考えるのは傲慢だ、と思う。

あなたにとってその人がかけがえのない存在だったとしても、その人を依存させては、その人に依存してはいけない、とも思う。

プロフェッショナルは、一人で立っていることができて初めて本物の仲間に出会うことができるものだからだ。

だから、その人があなたのもとを離れる決断をしても、それに憤慨する権利もなければ、悲嘆する必要もない。

 

僕は、大切な誰かが旅立つ時は、全力でその背中を押すようにしているし、押したいと思っている。

喩えその行き先に納得できていなかったとしても、きっと僕にはわからない、素晴らしい世界が広がっているはずだから。

そして、ともに過ごした日々に僕が投げかけた言葉が、その素晴らしい世界で芽吹き、育ち、実を結び、

また違う誰かにその種を届けてくれるだろうと信じているから。

 

いつ誰がいなくなるかわからない会社にいること、しんどい時もあるけど、

だからこそ、共に働く一瞬一瞬が、どれだけ心を揺さぶり、揺さぶられるかの真剣勝負で、

そんな環境に身を置いているからこそ、ひとつひとつの出会いが価値あるものになる。

それはまさに、プロフェッショナルとプロフェッショナルの対峙、そのものだと思う。

 

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夏の始まりを告げる湿った雨の匂いの中、

新しい世界への扉を開く彼に、心からのエールを。

 

卒業おめでとう。